連載 AIのハーネスを実例でほどく | 第4回
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散らかった机をひととおり片付けて、コーヒーが少し冷めるくらいの時間で読めます(5分)

何を見せ、何を隠すか ── AIの「狭い机」を、どう片付けるか

丸メガネの賢い赤ちゃんが、机をきれいに片付けているイメージ。

前回までで、賢い赤ちゃんに「手」を持たせて、「自分で試して直す」ところまで来ました。今回はその赤ちゃんの「机の上」の話です。むずかしく言うと「コンテキスト管理」。でも、これも要は片付けの話なので、身構えなくて平気です。今日も、ぜんぶ日常語にほどいていきます。迷子のみなさんに届きますように。

まず、ここまでのおさらい

ハーネスは4つの装具でした。①「手(ツール接続)」と②「一度で終わらせない(ループ制御)」のランプは、もう点いています。今日はみっつめ、「何を見せ、何を隠すか」にいきます。

① 道具を渡す(ツール接続) ← 第2回で点灯ずみ
② 一度で終わらせない(ループ制御) ← 第3回で点灯ずみ
③ 何を見せ、何を隠すか(コンテキスト管理) ← 今日はここ
④ できたか確かめる(検証・ガードレール) ← 次回

AIの「机」は、意外とせまい

AIはものすごく賢い。なのに、いっぺんに見ていられる量は、意外と少ないんです。ここがけっこう大事なところで、人間でいうと「作業机の広さ」に近い。机が広く見えても、ほんとうに目の前に置けて、ちゃんと頭が回る範囲は限られています。

たとえば、テーブルの上に資料を全部ドサッと広げたとします。最初の数枚はいい。でも10枚、20枚と積み上がってくると、どこに何があるかわからなくなる。さっき見たはずのメモが、別の紙に埋もれる。人間でも、こうなると手が止まりますよね。AIも、まったく同じです。むしろAIのほうが、関係ない紙に引きずられて、変な答えを出しやすい。

だから、机に全部を広げない。今この瞬間に必要な分だけを、きれいに置く。これが「コンテキスト管理」です。AIに渡す情報を、少なく、でも中身の濃いものに絞る。Anthropic はこれを「context engineering(コンテキストエンジニアリング)」と呼んでいて、ざっくり言うと「いま必要な、いちばん効く情報だけを机に並べる工夫」のことです[1]

同じ「机」でも、置き方で頭の回り方が変わる 全部ひろげる → 混乱する どれが大事か、わからない いま要る分だけ → 頭が回る 大事なものが、ちゃんと見える
机が散らかると、人もAIも手が止まる。全部広げず、いま要る分だけを置く。これがコンテキスト管理の出発点です。

猫でいうと、ジャンプ前の「狙いを絞る」

前回、猫が冷蔵庫の上に飛び乗る話をしました。あの猫、飛ぶ直前に何をしているか。じーっと、跳ぶ場所の一点を見ています。部屋のテレビも、床に落ちたおもちゃも、窓の外の鳥も、その瞬間はぜんぶ視界から外している。狙う一点に意識を寄せているわけです。

もし猫が、部屋じゅうの情報を全部きょろきょろ追っていたら、たぶん飛べません。情報が多いほどいい、ではないんです。いま必要な分にしぼるから、うまくいく。AIの机を片付けるのも、これと同じ発想です。

片付けの3つのやり方

では、どうやって片付けるか。やることは、だいたい3つに分けられます。難しく見えますが、構造はシンプルです。

机を片付ける、3つのやり方 1 畳む 長くなった話を 短く要約して 場所をあける 2 メモする 大事なことは 整理したメモに 書いておく 3 分ける 仕事を小分けして 別の担当に渡し 机を分散する どれも狙いは同じ。机の上を「いま要る分」に保つこと
畳む・メモする・分ける。やり方は違っても、目的はひとつ。机を「いま必要な分」に保つことです。

1つめ、畳む。AIとのやり取りが長くなると、これまでの会話が机にどんどん積み上がります。そこで、古いやり取りは要点だけ短くまとめて、残りは片付ける。本でいう「ここまでのあらすじ」を作って、分厚いページは閉じてしまうイメージです。

2つめ、メモする。毎回ぜんぶ覚えさせようとせず、大事なことは外の「整理したメモ」に書いておく。そして必要になったとき、その分だけ机に出す。頭の中で抱え込まず、ノートに預ける感覚です。

3つめ、分ける。大きな仕事をひとつの机で全部やろうとすると、すぐ散らかります。だから仕事を小分けして、別の担当(サブエージェント=下請けのAI)にそれぞれ持たせる。机を一つにせず、何枚かに分散するわけです。Anthropic も、込み入った仕事は複数のAIに役割を分けて持たせるやり方を整理しています[2]

このブログの裏で、僕が実際にやっていること

これ、抽象的な話に聞こえるかもしれません。でも、いまあなたが読んでいるこのブログ自体が、まさにこの片付けの上で動いています。僕がやっていることを、3つに分けて見せます。

「プロンプト(指示文)をどう書くか」より「コンテキスト(机の上)をどう整えるか」のほうが効く、と言われるのは、ここです。細かい指示を盛るより、余計なものを机から下ろすほうが、AIはちゃんと働く。少なく、でも濃く。これがコツです[1]

気をつけたいのは、「少なく」を「雑に」と取り違えないことです。机を空けるのが目的になって、肝心の一枚まで下ろしてしまうと、AIは大事な前提を忘れて迷走します。狙いはあくまで「いま要る分は、ちゃんと机にある」状態。減らすことではなく、必要なものを残して、余計なものだけ下ろす。ここを外すと、片付けたつもりが手戻りを増やします。

今日のまとめ ── ランプ③、点灯

むずかしそうな「コンテキスト管理」も、ほどいてみれば「机の片付け」でした。全部を広げず、いま要る分だけを置く。長い話は畳み、大事なことはメモに預け、大きな仕事は分けて机を分散する。これでハーネスの3つめのランプが点きます。

ツール接続 点灯ずみ ループ制御 点灯ずみ コンテキスト管理 点灯(第4回) 検証・ガードレール 次回
3つ点きました。残るは「④ できたか確かめる(検証・ガードレール)」。机が整った赤ちゃんに、最後の安全装置をつける回です。

手を持って、自分で試して直せて、机まで片付いた赤ちゃんは、もうかなり一人前に近い。でも、本人が「できました!」と言い切ったとき、それを誰がどう確かめるか。最後の一つは、その話です。今日も、ここまで読んでくれてありがとうございます。まだ道の途中、もう一回だけ、一緒に進みましょう。

「うちの場合、何を見せて何を隠せばいい?」と思ったら

AIに何でもかんでも渡して、かえって精度が落ちている。これ、本当に多いです。どの情報を机に出して、どれを下ろすか。社内のどの業務から片付けると効くか。そのあたりを一緒に整理するところから始められます。気軽に声をかけてください。

← 第3回:一度で終わらせない 第5回:検証・ガードレール(準備中)

出典(英語・一次情報)

  1. Anthropic, “Effective context engineering for AI agents,” Anthropic Engineering, September 29, 2025. 記事を見る ↩ 本文へ
  2. Erik Schluntz & Barry Zhang, “Building Effective Agents,” Anthropic, December 19, 2024. 記事を見る ↩ 本文へ